三田村組 番外篇「yajirobee やじろべえ」

作 / 今いそむ
演出/ 木村健三
出演/ 三田村周三
      高乃麗
      古屋治男
      保倉大朔
      栗田香織
      木村健三
      吉井有子

2002.2.19(火) 15:00 / 19:00
2002.2.20(水) 15:00 / 19:00

前売 \2,500 当日 \2,800 全席自由

於 新宿Pamplemousse(パンプルムス)

応接間のような部屋。
手前に応接セット(ソファとテーブル。テーブル上に煙草入れとライター)。
一つのソファの上に、金色の座布団がのっている(組長の席)。
奥には、バーカウンターとハイスツールが二脚。
カウンターの上には、灰皿と煙草と電話。
さらに奥には、様々な酒のボトルが入った大きなキャビネット。
キャビネットの上には、大きなやじろべえのオブジェ。
床には真っ赤なカーペットが敷かれ、壁にはインターホンがある。

この部屋が
ある時は、組事務所の組長室。
ある時は、SM女王・かおるのマンション。
ある時は、組長宅の応接間。
ある時は、矢沢の女(バーのママ?)が働いているバー。

登場人物

小林(三田村周三)   ヤクザの組長。秘かにSM趣味を持つ(ちなみに
            マゾ)
小林ミチ子(高乃麗)  組長の妻。子供が無く、組長に構ってもらえない
            寂しさから日々深酒している
矢沢(古屋治男)    組の若頭
山本アキラ(保倉大朔) 矢沢の口ききで最近組に入った若者。
            組長付の運転手になる予定
かおる(栗田香織)   SMの女王様。組長も得意客の一人
シュウ(木村健三)   かおるの恋人(ヒモ?)。ホスト
ユウコ(吉井有子)   矢沢の女。バーのママ

SCENE.1 組事務所の組長室

 組長(小林)と若頭(矢沢)が、応接セットのテーブルを挟んで向き合っ
て座っている。矢沢が提出した報告書を苦い表情で読む組長。
読み終わった後、組長の妻(ミチ子)の差し入れだという肉じゃがを二人で
食べ始める。
食べ終えた後、矢沢が組長に最近組に入った男に会ってもらえないかと切り
出す。快く応じる組長。やがて、ガチガチに緊張した茶髪の若者が入ってく
る。
 彼の名は山本。この辺り一帯を仕切っていた暴走族の頭をやっていたとい
う山本は、矢沢の誘いで組に入った。矢沢は彼を、最近他の支部へ異動する
事が決まった組長付運転手の後ガマにするつもり。
山本は、コーヒーを要求する組長の仕草を勘違いして拳銃を持ってくる程ま
だこの世界に慣れていない。
 不安を隠せない組長だったが、みっちり礼儀を仕込むという矢沢の言葉に
頷き、外出しようとする。山本に送らせましょうかという矢沢の誘いを断り、
行き先も告げずに何やら嬉しそうに出かけて行く。
どうやら、毎月5日と20日はお忍びで何処かへ出かけているらしいのだが
……。

SCENE.2 SM女王・かおるのマンション

怪しげな赤いライト部屋。そこで、アルミマットが敷かれたテーブルの上
に、背中にまわされた両手にオレンジ色の手錠をはめられた、背中一面に刺
青のある男が紙オムツ一丁でうずくまって寝ている。
そこへ、ローソクと鞭を持った、ボンテージルックのかおるが登場。
男を鞭で強かに叩く。
 恍惚の表情を浮かべ、かおるを「女王様」と呼ぶその男はなんとさっきの
渋い小林組長。鞭とローソクで攻められ、犬になったり、かおるの足の爪に
ペディキュアを塗らされたり。
嬉しそうに塗る組長の背中にローソクをたらし、はみ出して塗った罰だと、
されるがままの組長に下剤を注入するかおる。
トイレに行くのを一分間我慢出来たら願い事をひとつ叶えてやると言われて、
脂汗を流しながら必至の形相で堪える組長。
 堪え切った組長は、「ご褒美に女王様の聖水を浴びたい」とほざいてかお
るに怒られる。却下され、「では女王様の舞いが見たい」と言い、次回に踊
ってもらう約束を取り付ける。浮かれる組長。

SCENE.3 組長宅の応接間

 バーカウンターのハイスツールに座り、物憂げに煙草をくゆらせながらペ
ディキュアを塗る女性。頭にタオルを巻き、ガウン姿の彼女は組長の妻・ミ
チ子。
応接セットのテーブルの上には、新聞紙をかけられた組長の夕食と、赤いリ
ボンのかかったプレゼントのような包みがのっている。
片方のソファの上には、洋服が散乱している。
 そこへ、楽しげな様子の組長が帰宅。ミチ子を見て、まだ起きていたのか
と驚く。そして、夕食をとる組長。
山本という活きのいい若い者が組に入った、俺の運転手になる予定だからお
前も名前くらいは憶えておけとミチ子に言う。
組長が食べている間、それを無表情に眺めているミチ子。
ご飯のおかわりを頼まれても、半分だけと言われたのにかったるそうに茶碗
に山盛りのご飯を持ってきて、「男なんだから細かい事言わずにそれくらい
食べろ」と言う。
 やがて、組長がテーブルの上の包みに気付き、中身が純金のロレックスと
知りはしゃいでいるのを見て、初めて嬉しそうに笑うミチ子。
が、そのプレゼントは、実は仏壇に置いてあった組長自身のお金(明日、組
の総長の病気見舞に持って行く 200万円)で買ったものだと知り、うろたえ
る組長。
お金をおろす為に、組長のキャッシュカードを預かってはしゃぐミチ子は、
ソファの上の洋服を全部片付けてから寝ろという組長の言葉を無視して、組
長ににっこり笑ってVサインを出してひとり寝に行く。
 食欲が無くなったと、食事の途中で食器を片付ける組長。
テーブルの上にマニキュア液を見つけ、嬉しそうに手に取るが、すぐにバツ
が悪そうに元に戻す。
ソファの上の洋服を全部たたみ、それを片付け、自分も寝に行く。

SCENE.4  SM女王・かおるのマンション(再)

 怪しげな赤いライトの元、ボンテージルックに身を包み、ハードな音楽に
合わせてセクシーに踊るかおる。
満面の笑みを浮かべ、それをカウンター越しに眺めている組長は、今日は犬
にされている。鞭を咥えてかおるに渡し、打たれて喜ぶ組長。
しまいには、かおるが踊っているテーブルに乗り、横で一緒に踊り出す。
せっかく踊ってやっているのに、何一緒になって踊っているんだとかおる
に鞭打たれる組長。
 そして、興奮のあまり前回断られたにも拘わらず、性懲りもなく「やはり
女王様の聖水が浴びたい」とかおるに執拗に詰め寄る。
根負けしたかおるは、次回に願いを叶えてやると約束するが、組長は待てな
いと譲らない。
仕方なく、キャンセルが出たら電話してあげるから、その代わり絶対に一時
間以内に来いというかおる。夢見心地で頷く組長。

SCENE.5  矢沢行きつけのバー

 トイレから出てきた矢沢にタオルを差し出し、上着を着せる山本。
カウンターの奥では、この店のママらしい女性が一人、煙草をくゆらせなが
ら雑誌を読んでいる。
少しは慣れてきたようだなと矢沢に声をかけられ、喜ぶ山本。
矢沢から組長の若い頃の話を聞き、感激する。
 矢沢はバーのママが自分の女である事を山本に打ち明け、酒を勧める。
その後、山本は矢沢から、病気で療養している組の総長がそう遠くないうち
に引退するかもしれない事、配下の四天王のうち、小林組長が跡目を継ぐ事
になる可能性が高い事、それは組長が毎週総長の元へ結構な金額の見舞金を
持参しているからであり、その持参金を用意出来るのは、若頭である自分に
シノギをあげる力があるからだという事を聞かされる。
 感激のあまり、一生ついて行きますと叫び、矢沢に抱きつく山本。
その光景を、珍しいものを見るような目で眺めているバーのママ。
一生ついて行きますと言う奴程信用ならないと矢沢は醒めた口調で言い、山
本を残してバーを後にする。

SCENE.6  組長宅の応接間(再)

 スウェット姿でソファにもたれかかり、空虚な目でデカンタに入った日本
酒を一気飲みするミチ子。
その時、インターホンが鳴り、慌ててデカンタとグラスを隠そうとウロウロ
する。長ネギの出たスーパーの買い物袋を下げた組長が帰宅。
ミチ子はカウンターにつき、組長に背を向けて、隠れるようにして酒を飲み
続ける。
 組長はお腹が空いたとテーブル上に用意してあった夕食のトレーの上の新
聞紙をめくるが、中身が茶碗とお茶漬けの素だと知り落胆する。
これから組の若い者達の為に豚汁を大鍋一杯作らなければいけないから、そ
の前に腹ごしらえしたい、何か作ってくれとせがむ組長。
(組長が下げて帰ってきた袋の中身は、豚汁の材料。よく組に差入れられる
「姐さんの手作り料理」は、実はこっそり組長が作っているらしい。)
 何もない、その豚汁で腹ごしらえすればとそっけないミチ子の態度がおか
しい事からミチ子が飲酒している事に気が付いた組長は、酒を取り上げよう
とするが、ミチ子は抵抗して逆ギレする。
お前の事を大事に思っているからこそ、酒はやめてくれと哀願する組長。
酔ったミチ子は、昔建設会社の社長だと言って自分をだました、組がピンチ
の時に勝手に自分の店を売ったと組長を責め、警察に電話しようとして止め
られる。
 組長は、お茶漬けでいいからお前はもう寝ろとミチ子に言う。
あんたの頭の中は組の若い者の事ばかりで、ちっとも自分の事を構ってくれ
ないと嘆くミチ子。
店を売ってしまった事を心からすまないと思っているからこそ、お前を大事
にしてきたし、あれ以来一度もお金の心配をさせていないじゃないかと言う
組長。
ミチ子と一緒に行こうと苦労して手に入れたという五木ひろしショーのチケ
ットを見せ、機嫌を直してもらおうとするが、ミチ子は五木ひろしは嫌いだ
とこれを放り投げて拒絶する。
店をやっていた頃、五木ひろしが好きだと言ったのはあんたに話を合わせた
からだ、飲み屋女が客に話を合わせるのは常識だ、あんたも遊び人を気取る
ならそれくらい察しをつけろ、自分一人で行くから今すぐスマップのチケッ
トを持って来いとミチ子に罵倒され、逆上した組長はミチ子を思いっきり平
手打ちし、ソファの上で揉み合いになる。

組長 「大宮一の店を切り盛りしていた、颯爽としてきっぷの良かった、
    俺が惚れた昔のお前は一体どこへいってしまったんだ?」
ミチ子(一瞬黙った後、少し傷ついたような目をしながら、組長の目を真
    っ直ぐに見据えて)
   「……ここにいるよ。あんたの目の前に、いるよ」

やがて組長に抱きついたまま、「アンタあぁ……」と泣き崩れるミチ子。

ミチ子(抱きついたまま、甘えた声で)
   「ねぇ、しよう」
組長 (振り解こうとしながら、憮然とした調子で)
   「俺は忙しいの。これから豚汁も作らなければいけないし。
    さんざん人をカリカリさせておいて、しようはないだろ」
ミチ子「え〜だって……したくなっちゃったんだもん」
組長 (つぶやくように)
   「第一、勃たねえよ」
ミチ子(表情がパっと明るくなり)
   「大丈夫!私が勃たせてあげる」

ミチ子は組長をソファに追い詰めた後押し倒し、馬乗りになってズボンのベ
ルトを外そうとする。
「助けて〜」と情けない声を出す組長に、平手打ちをくらわすミチ子。
そして暗転。

SCENE.7  組事務所の組長室(再)

 だいぶ慣れてきたようだなと、掃除をしている山本に声をかける矢沢。
来週からいよいよ組長付の運転手だと告げる。
そうなったら、お前に頼みたい事があると言い、そわそわと辺りやドア付近
を気にし、誰もいない事を確認して安心した様子で戻って来た矢沢。
 組長付の運転手になったら、お前が組長のプライベートに一番近くなるの
で、組長の行動を逐一自分に報告するよう山本に命令する。
組長も最近あちこち痛いと言い出したり、お忍びで行動している日の後は特
にガックリきているようで心配だ、もし何か組長の弱味を握ったら、数年後
には自分が組長だと打ち明ける矢沢。山本は、全て報告しますと誓う。
 その時、携帯電話の呼び出し音が鳴る。
自分の持っている携帯を全部調べる矢沢だが、どれも該当しない。
その後、ソファの隅に置き忘れたままになっている組長の携帯が鳴っている
事に気付くが、出る訳にもいかず、見つめているうちに切れてしまう。
そして再び鳴る。
この電話は携帯を探している組長からかもしれない、出た方がいいと山本に
言われ、電話に出る矢沢。電話はかおるからだった。
 相手が矢沢とも気付かずに、時間が出来たから一時間以内に来いと言うか
おる。やがて、相手が違う事に気付いたかおるは慌てて電話を切ろうとする
が、矢沢はそれを制止し、すぐ組長を探してそちらに向かわせるが、もしど
うしても捕まらない時は自分では替わりにならないかと言う。
それでは小林さんが怒るだろうというかおるを説得し、組長が捕まらない場
合は自分が行くからと、かおるに携帯の番号を教えてもらう。
 その後、現在の組長付運転手に連絡を取るが、組長は現在明治座で五木ひ
ろしショーを見ているという返事。
自分が電話を入れた事を口止めし、山本には組長の携帯を自宅に届けるよう
いいつける矢沢。そして……。

SCENE.8  組長宅の応接間(再々)

 和服姿のミチ子が、無表情でカウンターにもたれかかっている。手には日
本酒の四合瓶。
その時、矢沢より、組の若い者に組長の忘れ物の携帯を持たせてそちらに向
かわせたという電話が入る。
 ほどなくして、山本が到着。にこやかに応対するミチ子。
山本は家には上がらずそのまま帰ろうとするが、ミチ子が半ば強引に家に上
げる。
 山本をソファに座らせた後、自分の留守中に組の若い者を絶対家へ上げる
なと親分に言われている、あなたが家に上がった初めての男性だと笑顔で告
げるミチ子。みるみる青くなる山本。
慌てて帰ろうとする山本に、もう上がってしまったんだから遅い、親分には
内緒にしてあげるから諦めろと笑うミチ子。山本は諦めて素直に従う。
 酒を山本に勧め、山本が車だからと断ると、それならご飯を食べていけと
言うミチ子。遠慮して山本は辞退する。会合で外で食事を済ませてくると親
分から電話があった、どうせ無駄になるからと、テーブルの上の食事を勧め
るミチ子に負けて、食事をする山本。
 おいしいおいしいと食べる山本を微笑みながら嬉しそうに眺め、かいがい
しくおかずを温めたり、ご飯のおかわりを持ってきたりするミチ子だが、途
中で急に涙がこみ上げてくる。
必死に涙をこらえるミチ子の様子に気付いた山本は、自分が何か失礼な事を
してしまったのではと早合点して土下座して詫びる。
ミチ子は涙を拭いながら、あんたは何も悪くないとつぶやく。

ミチ子「あたし、子供が欲しかった……。男の子。あんたみたいな。
    出来なかった訳じゃないのよ。でも、親分に『ヤクザの親分に子供
    はいらない、組員が俺とお前の子供だ』って言われて……二回も堕
    ろしちゃった。
    でも、あたしは自分の子供が欲しかった。欲しかったよう……。」
    (泣きじゃくる)

ハンカチを出して渡すのを思いとどまり、どうしたらいいか分からずミチ子
をただ見つめる山本。ミチ子は、やがて涙を拭い、

ミチ子「山本君、あんた名前は?」
山本 「え、ヤマモト……ですけど」
ミチ子(一瞬唖然として)
   「それは名字。あたしが聞いているのは名前。
    もう、ヤクザなんてバカばっかり!」
山本 「アキラ……です」
ミチ子(驚いた様子で)
   「アキラ!?」
山本 「はい」
ミチ子「あたし、男の子が生まれたらその名前つけたかったの。親分にも話
    した事あるのよ。でも、『バカ、それじゃその子は小林旭だ』って
    ……。キムラタクヤも、芸能界と野球界にそれぞれいるけどどっち
    も一流よ。
    名前なんて関係ない、自分の世界で頑張ればそれでいいじゃない」
山本 「……」
ミチ子(パッと顔が明るくなり)
   「そうだ、あんた親分の養子になりなさい。
    そうすればあんたは小林アキラ。私の夢が叶う!」
   (照れくさそうに、小声で)
   「……アキラ」
山本 (同じく小声で)
   「……ハイ」
ミチ子(嬉しそうに)
   「アキラ」
山本 (小さく手を挙げて)
   「ハイ」
ミチ子「小林……アキラ」
山本 「ハイッ」
ミチ子(ものすごく嬉しそうに)
   「やだかわいい〜! 小林アキラぁ!!」
山本 (大きく手を挙げて、大声で)
   「ハーイッ!!」

このやりとりが延々と続く。

SCENE.9  SM女王・かおるのマンション(再々)

 ガタイのいい長髪の男がかおると一緒にいる。彼はかおるの恋人(ヒモ?)
のシュウ。
かおるはシュウに金を渡す。シュウはホストで、あと数カ月現在の売上をキ
ープ出来れば店を持たせてくれる約束になっているという。
もっとシュウの店に行くから頑張れと、シュウを励ますかおる。
絶対にホストクラブのオーナーになってみせる、そしてそれが叶ったらかお
ると契約するから一緒に仕事をしようと言うシュウ。
嬉しさのあまり、シュウの首に抱きつくかおる。
 そこへ矢沢からの電話。マンション近くまで来ているという矢沢に、部屋
の位置を教えるかおる。
名残り惜しそうにかおるとキスを交わした後、シュウはマンションを去る。
 やがてやって来た矢沢。かおるは服を脱ぐよう命令するが、かおるの服装
と部屋の様子を見た矢沢は、「そういう事か」とつぶやき、用事を思い出し
たからと帰ろうとする。怒るかおる。
貴重な時間を空けているのだから遊んで行けというかおるに、一度はすごん
で見せた矢沢だが、ここへあんたが替わりに来ている事を小林さんは知って
いるのかと詰問され、黙ってしまう。
組長の趣味を体験するのも一興だと言い、かおるに金を払って服を脱ぐ矢沢。
 遊び慣れず、Mの気もない矢沢は、かおるの鞭やローソク責めに耐えられ
ず悲鳴をあげる。面白がるかおる。
矢沢を豚扱いし、首にロープを巻いて背に乗って歩かせたり肩を揉ませたり
する。揉んでいる最中にかおるの首を締めた矢沢だが、小林さんに言いつけ
るというかおるの言葉で我にかえり、慌てて手を離す。
 お仕置きだと矢沢に手錠をかけようとするかおるだが、手錠を見てキレた
矢沢は暴れ出す。
かおるから手錠を取り上げ、服を掴み、手錠を持ったまま、自分は今日の事
を忘れるからお前も忘れろと息も絶え絶えに言い、逃げて行く。
半ば呆気にとられて頷くかおるだったが、今後あいつは絶対出入り禁止だと
怒り出す。

SCENE.10 組事務所の組長室(再々)

 ソファに体を投げ出して眠っている矢沢。そこへ山本が入ってくる。
暫くして、矢沢はうなされて目を覚ます。
どうしたのかと尋ねる山本に、昨日ろくでもない事があってうさ晴らしに飲
みに行ったが、その後の事は憶えていないと疲れたように言う矢沢。
コーヒーでもいれましょうかと言う山本に、そろそろ組長が来る頃だからと
矢沢は顔を洗いに行く。
 やがて、組長登場。
矢沢がいる事にちょっと驚いた様子で、夜遅くまで仕事をしているのだから
朝くらいゆっくり休めと言い、ソファに座り、テーブルの上のスポーツ新聞
に目をとおす。
組長と矢沢がプロ野球の話をしていると、山本がコーヒーを持って現れる。
 組長がコーヒーを飲んだ後、煙草を吸う仕草をするのに気付き、素早く煙
草を一本指に挟んだ後、自分のポケットからライターを出そうとする山本。
が、どこを探しても見つからず、テーブルの上のライターで火をつけようと
するが、あいにくガス欠でつかない。
うろたえる山本に、そこに掛かっている自分の背広の内ポケットにライター
が入っているからそれを使えとじれったそうに言う矢沢。
 慌ててコートハンガーの所へ行き、矢沢の背広の内ポケットからライター
を取り出そうとする山本だが、何かが中で引っ掛かってして取れないと訴え
る。それならその引っ掛かっている物を先に出したらいいだろうという矢沢。
 やがて山本が引っ張り出したのは、矢沢がかおるの所から持ち帰った、組
長もさんざん見覚えのあるあのオレンジ色の手錠だった。

あっ、と小さな声を発した後、硬直する矢沢。
煙草をくわえたまま、呆然とする組長。
きょとんとする山本。
顔色を失った組長のくわえている煙草が、上下に小刻みに揺れる。

暫しの間。
どちらからともなく笑い出し、やがてそれは哄笑に変わる。
山本までつられて笑い出す。
その乾いた笑いは際限なく続く……。

                            −幕−

上演時間 約 120分

*備考

やたら飲み食いするお芝居でした。

・肉じゃが、具無しのおにぎり
・銀ムツ、冷奴、お漬物、ご飯(組長の夕食 第1回目)
  (千秋楽だけ、何故か銀ムツが鯖味噌に変わってました)
・ご飯、永○園の鮭茶漬けの素(組長の夕食 第2回目)
・焼鮭、帆立のバター焼き、イクラ、お漬物、ご飯
         (組長の夕食だったが、山本が御馳走になる)
・コーヒー
・ブランデー(ヘネシー)(バーで矢沢が飲む)
・焼酎お湯割り(梅干し入)(バーで山本が御馳走になる)
・煙草(テーブル上のは銘柄不明。カウンター上にあったのは、
   カールトンメンソール 1mg。
   どうでもいい事ですが、自分以外でこの煙草を吸っている
   人を初めて見ました、私)

 チケット代のあまりの安さに感動してしまった私は、勢いで4公演全て観
劇しました。
始めは別々にレポートを書いていたのですが、観過ぎたせいか(笑)出来事
それ自体は憶えていても、それがどの回の出来事だったか記憶が曖昧だった
ので、結局まとめて書くことにしました。

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パンプルムスは、新宿三丁目にある小劇場です(正確にはフリースペース
らしいです)。キャパシティは 100席ちょい。
今回の公演では、一番後ろにPAが入っていたので、実質 100席あったかど
うかというところだったと思います。
 1Fゲームセンター横の、急で狭い階段を登って行くと、そこはもう劇場。
靴を脱いで中に入ると、「いらっしゃいませ」の声が。
舞台の方に目をやると、なんと三田村さんと高乃さんがいらっしゃるお客様
一人一人に丁寧に挨拶されているではありませんか! 
しかも毎回。しかも開演時間近くまでいらっしゃいました。
これにはかなり驚きました。
そればかりか、施設や上演時間の案内、荷物の誘導なんかもされていて、細
やかなお心遣いに感動してしまいました。
それにしても、まさかこんな間近で生高乃さんにお目にかかれるとは……。

 席は、パイプ椅子と座布団。パイプ椅子は、隣の人とぶつかるくらいの密
度で整然と置かれていました。
前から4、5列目くらいまでは座布団の桟敷席です。
殆ど毎回のように整理番号 1番 2番で入場していた(笑)私は、大体、椅子
席最前列センターという好位置で観劇しました。
席を一つ置いて、田中真弓さんと西原久美子さんが隣に座ってらした事もあ
り、その時は聞こえてくる笑い声(特に、西原さんの「きゃはは」というア
イリスばりの声。ってご本人ですけどね(^_^;))が気になってドキドキして
しまいました。
 シークレット公演(多分)だった為か、お客様は役者さんのお知り合いと
おぼしき方や舞台関係者とおぼしき方がかなり多かったようです。
サクラ関係の方も、広井さん、横山さん、田中真弓さん、西原さん、伊倉さ
ん、矢尾さん等、たくさんお見かけしました。

 座布団の桟敷席からほんの 1mも離れていない所がすぐ舞台でした。
舞台と客席の段差が全く無いので、そのあまりの近さにまず圧倒されました。
一度、舞台サイドの椅子席最前列で観せて頂きましたが、肉じゃが臭いわロ
ーソク臭いわ、すぐ目の前でかおるさんが妖艶に踊ってくれるわミチ子さん
が這い回ってくれるわで、臨場感たっぷりで最高でした。
(組長や矢沢さんも目の前を這い回ってくれましたが(^_^;)。)

 ストーリー自体は、前述したとおりです。
アドリブは少なかったと思います。
 アドリブではありませんが、ミチ子さんが山本に名前を聞くシーンで、
「それは名字。あたしが聞いているのは名前」と言う台詞を
「それは名前。あたしが聞いているのは名字」と言ってしまった事がありま
した。後で気付きましたが、ちょっと面白かったです。
 また、ミチ子さんの「あたし、男の子が生まれたらその名前つけたかった
の。親分にも話した事あるのよ。でも、『バカ、それじゃその子は小林旭だ』
って」の台詞の後に、千秋楽のみ
「俺が小林旭に憧れてこの世界に入ったのがバレるだろう!」と親分に怒ら
れた、という台詞が追加されていました。

 また、千秋楽はすごいお客様の数で、狭い劇場だけに全員を収容するのに
時間がかかってしまい、開演時間が遅れました。
そのせいか、矢沢が組長室で、お前に頼みたい事があると山本に言い、誰か
立ち聞きしてやしないかとそわそわと辺りやドア付近を気にし、誰もいない
事を確認するシーンなんかでは、その確認する箇所が省略されていたように
思いました。

 高乃さんの役は、小林組長の妻・ミチ子さん。
最初の方にも書きましたが、子供がなく、組長が組の若い者にばかり構って
いるのが面白くなく、寂しさを紛らわす為に日々深酒している、そんなちょ
っと寂しいヤクザの姐さんです。
飲むわキレるわ暴れるわ迫るわ(暴れて脱げて、ちょっとパンツが見えてし
まったり(^_^;))、なかなか激しい役でした。
 ミチ子さんの最後の登場シーンでは、淡いグリーンの着物を粋に着こなし
ていらっしゃって、凛々しくてとてもカッコ良かったです。
個人的には、高乃さんはかおる役でも似合いそうだと思いましたが(笑)。
 基本的には喜怒哀楽が激しい、ミチ子さんという役を演じられて、無表情
から感情が高まって表情が一変するような所やその間を見て、改めて高乃さ
んの役者としての大きさに感嘆してしまった私でした。

 19日の夜の回の終演後、なんと三田村さんが「役者と話がしたい方は少し
残っていて下さい」とおっしゃって下さって……かなり迷ったのですが、厚
かましくも少しお話させて頂きました。
「千秋楽はお酒、本物ですか?」と伺ったら(どうも「サクラ」の癖が抜け
ませんね(^_^;))、
高乃さんは「まさか〜」と笑ってらっしゃいました。
終演後のお疲れのところ、サインと握手にも応じて頂き、本当に感激してし
まいました。

 お芝居の匂いや、小さな音の震えさえ伝わってきそうな小さな小さな空間
での舞台。
サクラの歌謡ショウのような、洗練された大きな舞台とはまた違った魅力が
あって、舞台の楽しさを改めて教えて頂いた舞台でした。
本当に素晴らしい舞台でした。

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